細かいところまで作るの大変だろうな。

 

そんなことを言うのは、女に負けることに怯えている奴だけだ。 ーリヴィアのゲラルトー(THE Witcher3 wildhuntより)

 

ウィッチャー? エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)

ウィッチャー? エルフの血脈 (ハヤカワ文庫FT)

 

 

 

 アンドレイ・サプコフスキの小説を原作とするウィッチャー3のNintendoSwitch版が出るらしい。

 ナンセンスと人権がシリーズを通底するテーマだ。

 人権問題(民族差別、性差別、階級差別、迷信、因習、戦災、貧困など)を小説で取り扱うのは、よくあることだが、ゲームもまた原作以上にテーマを昇華しており、原作へのリスペクトを強く感じる仕上がりだ。原作の序盤こそ、やや童貞小説感もあるものの、ゲームは至ってハードボイルドで、テーマによりマッチした世界観が感じられる。

 原作小説の方はちょっと表現が抑え気味で遠慮を感じるが、ゲームでは生々しさが増している。これはゲームはチームで作成するため、どこまで表現の幅を取るか、吟味できたが故だろう。

 豪奢な王宮とねずみの這いまわる貧民街との対比、魔女狩り、風車に突撃する騎士など、中世後期風の世界でありつつ、一方で男女同権思想の芽生えのようなものを感じさせる場面もある。

「今は13世紀だぞ?」

 主人公のゲラルトはよくその様なことを口にし、女性はもっと自由に生きるべきであるというようなことを言う。それは愛する娘のような存在と、恋人の魔術師の影響かも知れない。

 とはいえ、基本的には殺人も厭わない人物で、恋人以外と関係を持つことに何らためらいはなく(恋人は恋人で躊躇うとは思えないが)、娼館にもしばしば通っている。

 才能あるものは生まれにかかわらず活躍すべきだというような、アメリカンハードボイルド風の男なのだ。彼は金で依頼を受け、そのほかのことには干渉しない主義だ、として道徳的なことには目をつぶる。そして時々人情味を見せる。小説では、娘のような存在であるシリへの愛情が協調されていたが、ゲームではより冷徹な側面にスポットがあてられている。ゲームは特に自分で選択するという要素があるので、プレイヤーは迷いを体験できる。

 そういう開明派風の人物、現在にも多いのではないだろうか。ただゲラルトの場合は保身を図らないので、好感が持てるのだろう。主人公ゲラルトはただひたすら、失われた娘のような存在であるシリを取り返す為に戦う。

 

 ゲーム内に娼館があるというのも、社会の汚い側面は隠さないという姿勢の表れかもしれない。(ちなみに日本版は女性キャラクターは、みな同じデザインの使い古しのタオルみたいなものを胸に巻いている。そんなもん付けているほうが恥ずかしいだろうというほどの酷いデザインで、全く雰囲気にそぐわない。)

 娼館自体はゲーム上まったく意味はなく、ただ007的なセクシーシーンが流れるだけである。意味のない要素への情熱は、ゲームには非常に重要で、没入感に大きな差が出る。全く効果の変わらない食事アイテムが無数に用意されている(農園の名前がついたワインだけで10種類以上)ところなどは好感度が高い。食事といえばFF15に並ぶものはないが。

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 麻薬の蔓延、飲んだくれのDVと家庭内不和、難民、人種差別(ファンタジーなのでエルフとかドワーフとか)といった現代と共通する問題も、あらゆる行動につきまとう。

 現実を拡張する舞台装置としてのファンタジーが良く効いた作品だ。