エルデンリングの歴史物語(考察)

エルデンリングの物語

 

 エルデンリング*1の世界は、現在世界を律している「黄金律」と「星と月、冷たい夜の律*2」に代表される反体制派との覇権争いを巡る物語。物語の舞台、狭間の地*3は、物語以前にも、いくつかの神々が夫々の見出した律、あるいは彼らを見出した律によって支配されてきた。各所に散らばる古代遺跡がそれを物語っている。

 

大いなる意思と獣と指と神と王と

 この世界では生命の在り様は律によって定められている。律はその時代(eld)のエルデンリングを宿した神によって幻視される。エルデンリングは大いなる意思によって送られた、エルデの獣が変化したものである。一つの獣には一つの律があり、神が幻視することで世界に適用される。大いなる意思は直接的には世界に干渉せず、神へ神人(次代の神の候補。)の時に二本指派遣し、それを通じて神に指示を与える。指は動くことができず、また話すこともできず、手話のごとく空中に綴られる秘文字を指読みに読ませることを通じてその意志を示し、また従者として影従の獣を神に与える。王は神の配偶者であり、神人の子を為すほか、狭間の地を実力で平定し律を広める。神や神人や王は、エルデの獣以前からの在来の人々でも律のもとに生まれた人でも構わない。

 このように大いなる意思を頂点にした階層構造があるが、それぞれには別個の意思があり、必ずしもその思惑は一致しない。とくに神や神人は複数が並び立つことがあり、互いに争うことが繰り返されている。

 現在の律は黄金律であり、その幻視は黄金樹である。黄金樹や苗木が透明で実態が無いのは幻だからである。原初の黄金律の元ではエルデの獣(透明な幻。首の無い竜のような姿で、人の腕を持ち、鰓のような翼が多数あり、尾の先には根がある。律たる概念の具現であったーエルデの追憶)のように生命は交じり合い、人にも翼や尾や角があったが、黄金律(生命の在り様)から運命の死が取り除かれ以来、生命は交じり合うことが無くなった。死んでも死にきれず、黄金樹に戻り(還樹)再誕することが無くなったからであろう。

 かつては夜の律、腐敗の律、竜王の仕えていた律などがあった。

 

黄金律以前の時代

 かつて、女王マリカが神となる前には、狭間の地に夜の律が運命を司る永遠の都があった。

 しかし永遠の都は大いなる意思への反逆を企てたことで、その怒りに触れ、悪意の流星と暗黒の落とし子アステールにより地下深くに滅ぼされ、黒い月と夜空を失った。その跡は、狭間の地の中心に巨大なクレーターとして残っている。

 生き残った永遠の都の民は狭間の地の内外に散らばり、外に出た者の中には稀人の地で稀人に、残った者の中には巨人たちの山嶺で星見になった者がいた。星見は後の魔術師たちであり、星見の少女レナラは満月の魔術を見出し、僅かな騎士たちと共にカーリア王家を興した。

 

黄金律の来訪

 永遠の都が滅亡した後、大いなる意思は黄金の流星と共にエルデの獣を送り、獣がエルデンリングになった。稀人のマリカがその宿主となり、幻視の器となった。すなわちマリカの視る幻が黄金樹(Eldtree)であり、黄金樹を通じて狭間の地の生命の在り様を司るのが黄金律である。黄金樹が現れたとき、狭間の地のすべては黄金樹の敵だった。そして黄金樹に祝福された者たちによって狭間の地が平定されたとき、黄金律が狭間の地の律となった。

 原初の黄金律において、黄金はより生命に近く赤みを帯びており、銅(あかがね。赤金。)色だった。生命は交じり合う坩堝の様相を呈していた。人々にも角や尾が生え、炎を操っていただろう。かつての黄金樹は豊穣であり、恵みの雫をもたらしたが、それはつかの間のことだった。

 

原初の黄金律

 女王マリカは王に戦士ホーラ・ルーを迎え祝福を与えた。以後ホーラ・ルーはゴッドフレイを名乗った。マリカらは巨人戦争を始め、黄金樹を焼きうる巨人の火を封じた。そして輝ける黄金樹の時代が始まり、黄金樹の麓にローデイルが築かれた。

 黄金樹の時代、ゴッドフレイの黄金の軍勢-坩堝の騎士を配下におく銅の黄金律の-は狭間の地全土の平定に向かった。

 その戦いの中、宵目の女王率いる神肌の使徒たちとの戦いが起こった。宵目の女王もまた、次代の神の候補である神人として、二本指に選ばれていた。使徒たちは黄金樹の原初、坩堝にも似た人ならぬ諸相ーおそらく坩堝そのもの-を身に宿し、女王の持つ神狩りの剣のもたらした黒炎を操った。しかし宵目の女王はマリケスに敗れ、マリカがマリケスに依頼し、運命の死は黄金律から取り除かれ封印されてしまった。

 マリケスは、エルデンリングを宿すにあたり、マリカに与えられた影従の獣である。原初の黄金律から運命の死を封じた。運命の死が取り除かれた黄金律は、赤みを失い坩堝とは異なる現代の黄金律となった。生命は交じり合うことなく、死ぬこともなくなった。女王は永遠の女王となった。黄金樹の豊穣たるはこの時終わったのだろう。

 そしてマリカから黄金律ラダゴンが生じた*4

 

ゴッドフレイの追放

 その後にマリカとゴッドフレイとの間に3人の子、黄金のゴッドウィンと角のある双子祝福のモーゴッドとモーグが生まれた。原初の黄金律の特徴である角や翼があったことから、双子は忌み子とされ封印された。

 ゴッドフレイの征服戦争の過程で、赤髪の英雄ラダゴンは2度のリエーニエ戦役に参戦し、カーリア王家と和睦し、女王レナラと婚姻し、3人の子、ラニ、ラダーン、ライカードをもうける。

 このとき、ラダゴンはカーリア王家で魔術を学んだ。運命の死を除かれ不完全となった黄金律に、夜の律の理を導入する黄金律原理主義を創始し、原初の黄金律の完全を目指したのだ。ここで原理主義とは律を扱う学問を意味する。

 子のうちラニは母に手を引かれ冷たい月=暗月=黒い月に出会い、森の奥で出会った雪の老魔女にも師事している。またラダーンは白王から重力の魔術を習った。

 

 ゴッドフレイの進軍は続いた。嵐の王を倒し、リムグレイブ地方東部に到達したとき、マリカはゴッドフレイとその戦士たちから祝福を奪った。そして瞳が色褪せたときに狭間の地から追放すると宣言し、外征を命じた。さらに進軍して啜り泣き半島へ到達したとき、いつか祝福を返し、狭間の地に戻りエルデンリングを掲げることができることを約束したのだ。既に世界が壊れることを予期していたことになる。

 ついにケイリッド北部でゴッドフレイの戦いは終わった。瞳が色褪せ、褪せ人となったゴッドフレイの黄金の軍勢は狭間の地を去った。後にゴッドフレイは狭間の地の外で死んだ。

 

黄金律原理主義の時代

 ゴッドフレイが追放されたのを受け、ラダゴンはレナラを棄てローデイルに帰国し、第二代エルデ王となる。帰国の途上、ラダゴンは黄金律の探求を宣言、黄金律原理主義を創始する。マリカ=ラダゴンは双子のミケラとマレニアを産む。ミケラは永遠に幼く、マレニアは生まれながらに腐敗の宿痾を抱えていた。初めて障害のある子が生まれたことに黄金律の弱まりを感じないでもない。

 残されたレナラは心を壊してしまう。ラダゴンから与えられた琥珀(古い黄金樹の雫で古い生命の残滓、力を宿している。)の卵を用いて生まれ変わりの秘術に耽るようになる。

 この黄金律原理主義の時代、ラダーンは若き日に習得した重力の魔法で、サリアを襲った降る星にただ一人挑みこれを砕いた。そして以来星の運命は封じられた。星月夜の律において星とは降る星であり、重力に縛られてしまっては律も動かない。レナラと星を失った夜の律は黄金律原理主義によって再び抹殺されたのだ。

 ミケラはマレニアの宿痾である腐敗を抑えるべく、黄金律原理主義を棄て、無垢なる黄金を創始する。無垢なる黄金による新しい黄金樹が、外なる神の律である腐敗を抑えるはずだったが、後にミケラがモーグに攫われたことで無垢金の聖樹は育たなかった。

 

死の刃の陰謀の夜

 マリカの九人の子供から、ラニ、ミケラ、マレニアの三人だけが夫々の二本指に神人として見出された。二本指に操られるを良しとしないラニは死の刃の陰謀の夜を引き起こす。死のルーンの欠片を盗み出し、自らの肉体と黄金のゴッドウィンの魂を殺害したのだ。実行部隊は死の刃と呼ばれる女性だけの稀人の一味。永遠の都の民の末裔だった。陰謀にはライカードが助力しており、稀人を呼び寄せたのは同族たるマリカであろう。ラダゴンラニにとっては母を利用し捨てた憎い父であり、マリカにとっては双子を忌み扱いしてでも黄金律にしっぽを振る犬であったろうから。

 陰謀の後、運命の死はマリケスによって、二度と盗まれぬようその体内に再び封印され、時の狭間にあるファルム・アズラに隠された。ファルム・アズラは太古に永遠の古龍とその神が築き、隕石により滅びた文明の遺跡である。運命の死を持ったマリケスは全てのデミゴッドから恐れられ、手出しを受けなかった。

 

エルデンリングの破砕

 そしてマリカはエルデンリングを砕いた。狭間の地の外の稀人の地で作られた槌で。ラダゴンは修復を試みたが失敗。エルデンリングの欠片はマリカの子供=デミゴッドたちに渡る。マリカは黄金樹に罰として囚われ、世間からは隠れたといわれるようになる。実際にはリングの幻視を宿すもの=神の後継が他におらず、黄金樹の存続のためマリカを逃がすわけにはいかなかったのだろう。黄金樹はその種子を各地に飛ばし、子孫を残そうとした*5

 エルデンリングと共にマリカ=ラダゴンも半ば砕け、以来壊れかけたままである。

 マリカはエルデンリングを砕くことで、黄金律の犬であるラダゴンを砕き、黄金律から子供たちを解放したかったのだ。神にでも王にでもなれるように。

 

 大ルーンを手にしたデミゴッド達は破砕戦争を起こした。ゴッドウィンの子孫は王都を追われ、以後モーゴッドが王都を守り続けている。モーグはミケラをさらって地底へ隠れた。ラニは心失った母に大ルーンを棄て、自らの指から逃げ隠れた。ライカードは火山館で与えられた力を奪い合うを拒み、自ら大蛇に食われた。最後にケイリッドの野で星を封じているラダーンと腐敗のマレニアが相打った。それからラダーンはマレニアの腐敗によって正気を失ってさまよい続け、瀕死のマレニアは命からがら聖樹に連れ帰られたあと眠り続けている。もしかしたらマレニアは星の運命を解放したかったのかもしれない。サリアの直下には攫われたミケラのいるモーグウィン王朝がある。

 

 神人をすべて失った大いなる意思は、デミゴッド達を見捨て、褪せ人たちに再び祝福を与えるようになる。デミゴッド達にはできない、律の修復を行わせるために。そして長い時を経て死んでも死に切れぬ褪せ人たちが蘇り、狭間の地を目指すようになる。

 

褪せ人の時代(本編)

 それから長い時が流れ、褪せ人たちを円卓の幻視で導く、かつてのマリカの二本指に律を修復する褪せ人がついに訪れた。褪せ人は黄金樹を目指し、デミゴッド達を倒した。星砕きのラダーンを倒し、封じられていた星の=ラニの運命までをも再び動かした。

 大ルーンを集めたその褪せ人は、しかし黄金樹に拒絶された。エルデの獣は、黄金律ラダゴンは、もはや褪せ人が黄金律原理主義あるいは黄金律そのものを引き継がないことを恐れたのだろう。黄金律に運命の死が戻り、分け隔てない死が訪れるか、あるいは全く異なる律に取って代わられるのか。黄金樹は保身のため大いなる意思と二本指に背反したのだ。

 

 その褪せ人の旅の傍には、霊体となって狭間の地をさまよってきたメリナという少女がいた。メリナは、黄金樹にたどり着いたことで、生前の記憶と母から授かった使命を取り戻す。その使命*6とは自らを種火として、かつて封じられた巨人の火で黄金樹を焼くことである。

 そして黄金樹は焼かれた。マリケスも敗れ、運命の死が解き放たれた。黄金樹はもはや褪せ人を拒めず内部への侵入を許した。そこで黄金樹に囚われていた黄金律ラダゴンは敗北し、エルデの獣も倒された。

 最後の褪せ人は遂にエルデの王となった。

 そこに再び自らの運命が動き始めたラニが、自らを付け狙っていた彼女の二本指を倒し、壊れかけのマリカにたどり着く。ラニによってマリカは修復されることなく消滅した。ラニは、かつてのマリカの願いの通り、自らの意思によって夜の律の神になった。そしてラニは夜の律と共に狭間の地を離れた。狭間の地に律はなく、見ることも感じることもできないただ遠くに夜の律がある、星の世紀が訪れたのだ。

*1:時代の輪の意か。

*2:ラニの言葉。関係ないがゴッホの星月夜を想起させる。以後夜の律という。

*3:何と何の狭間なんでしょうね

*4:生じた時期に確固たる自信はない。

*5:生命が自らの終末を悟ったかのように。フレーバーテキスト

*6:普通は指巫女の使命だが・・・かつて焼かれた記録がある指巫女はベルナールの指巫女のみ?